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第8回統合バイオサイエンスシンポジウム

2009年11月17日〜18日の日程で第8回統合バイオサイエンスシンポジウムが開催されました。岡崎統合バイオサイエンスセンターは複雑な生命現象の理解のために新しいバイオサイエンスを切り開くべく設立された機関で、生命科学を柱としながら多様な分野を専門とする複数のグループから構成されています。今回のシンポジウムの目的は、近くて遠い(?)お互いの研究内容を紹介するとともに、普段はじっくり話しをする機会の少ないグループ間の交流です。シンポジウムはPI(principle investigator=研究室や研究グループのヘッド)によるプロジェクターを利用したグループ全体の研究内容説明と、大学院生を含む各グループの構成員によるポスターを利用した発表の二種類の形式で行われました。

講演・桑島教授出発当日はあいにくの雨模様でしたが、サークルや部活動の合宿に向かうような大きなバスに全員が乗って会場の「ヤマハリゾートつま恋」に1時間ほどかけて到着しました。緑に囲まれた素晴らしい環境の下、センター長である青野教授の開会挨拶でシンポジウムがスタートしました。PIによる各研究グループ紹介のトップバッターは細胞生理研究部門の富永教授で、温度受容などをつかさどるセンサー蛋白質のお話しなど、様々な環境変化に対する細胞の応答機構を細胞レベル・分子レベルで研究していることを分かりやすく紹介されました。神経分化研究部門の東島准教授はゼブラフィッシュの幼魚が透明であることに着目し、 ポスターセッション神経細胞に蛍光蛋白質を発現させることで得られた神経回路の機能解析について様々なスライドを用いて解説されました。神経分化研究部門の吉村教授はラットを利用した視覚機能の研究において特異的な神経回路網が形成されていることを丁寧な実験で解明してきた経緯について紹介されました。コーヒーブレイクを挟んだ後、神経細胞生物研究室の椎名准教授から神経細胞内におけるmRNA輸送に関してRNG105と呼ばれる蛋白質が重要な役割を果たしていることを明らかにした研究について系統立てた解説を頂きました。生命環境研究領域客員部門の最上教授からはインスリン分泌シグナルや血小板凝集機構など臨床的な観点から医療応用研究についてご紹介頂きました。招待公演では理化学研究所の望月教授から遺伝子発現における複雑な生体分子のネットワークを理論的に整理し、さらに予測を行う手法について具体例を交えながら解説頂きました。

夕食夕食は立食形式で開催され、あちらこちらで自己紹介と研究談義が繰り広げられ大いに盛り上がりました。その後のセッションでは、生体分子物性研究部門の桑島教授が分子レベルにおける蛋白質フォールディング問題への取り組みと細胞死の関連などについて講演されました。一日目最後は生体物理研究室の藤井准教授から金属酵素の機能発現機構とその改変についてコミカルな絵を交えながら分かりやすく説明頂きました。既にこの時点で夜の8時半頃だったのですが、ここから各グループの構成員によるポスター発表が隣の部屋で開催され、お互いの研究について議論を交わしました。その後も部屋や露天風呂で皆さん様々な話題で盛り上がったようで、深夜遅くまで親交を深めたようでした。

初日とは打って変わって快晴となった2日目のセッションは生物無機研究部門の青野教授からスタートで、ヘムを活性中心に持つ蛋白質が気体分子センサーとして働く機構に関して構造生物学的な観点からお話されました。生命環境研究部門の宮川助教は生物に対するホルモンの作用、特に近年問題となっている環境ホルモンに関連した研究についてワニ・メダカ・ミジンコなど様々な生物を取り上げ紹介されました。生命環境研究領域客員部門の飯田教授はシロイズナズナの機会刺激センサーに関して分子レベルから個体レベルまで解明した研究に関して説明されました。コーヒーブレイクの後、ナノ形態生理研究部門の永山教授からは生体分子を対象にした電子顕微鏡利用の現状や問題点、また現在進行している改良に関してウィルスや細胞の電子顕微鏡写真を実際に示しながら解説頂きました。生命分子研究部門の加藤教授は開発した糖鎖ライブラリーの説明とNMRを中心とした構造解析と機能解明の連携について最近の結果を交え紹介されました。分子発生研究部門の高田教授は発生過程における体節の繰り返し構造形成の機構に関与する蛋白質Ripplyの研究と細胞外に分泌される蛋白質の拡散挙動に関する解析について紹介されました。2件目の招待公演である大阪大学蛋白質研究所の高木教授からはシナプス間接着分子の立体構造解析から推測される二次元構造体に関して蛍光−電子線相関顕微観察法を用いた最新の結果についてご説明頂きました。

最後は永山教授から閉会の言葉をいただき、一泊二日の非常に充実したシンポジウムも無事に終了となりました。統合バイオサイエンスシンポジウムは今回初めて宿泊形式で開催されたのですが、「もっと早くやればよかった」と言う永山先生の言葉が表すように研究紹介・人事交流の両面において有意義であったと感じました。各研究室代表の先生方が、基礎的な部分から分かりやすい解説を行ってくれたため、相互理解が深まったことは間違いないと思います。センター内での共同研究を意識された発表も多く、ヘテロな組織であるからこその強さを今後の研究で生み出してゆく良いスタート地点にもなったのではないでしょうか。また研究グループの一員として参加した私の意見として、今後も構成員同士の交流の機会として来年度も開催されることを期待しています。PIの先生方は会議等で意見を交わす機会も多いかと存じますが、センターの構成員が一同に介する機会は決して多くない現状で、今回のような宿泊形式でのシンポジウムはお互いの知識を交換し高めあい刺激を受ける貴重な機会です。また、自分の専門分野とは異なる分野の第一線で活躍されているPIの先生方と直接お話しできる数少ないイベントでもあります。様々な分野の専門家が揃っている統合バイオサイエンスセンターだからこそ、今回のようなシンポジウムを通じて研究グループ同士の交流が深まれば、これまでにない新しいサイエンスの芽が建物のあちらこちらで生まれると思います。

文責:生物無機・石川春人