岡崎統合バイオサイエンスセンターリポート2013

岡崎統合バイオサイエンスセンターリポート2013の刊行にあたって

岡崎統合バイオサイエンスセンター(統合バイオ)は下記に記すように平成25年度に大きな転換期を迎えた。その激流の中で私(池中)が統合バイオ以外から初めてのセンター長に選ばれ、この新たな流れを作ろうとする一員として働けたことに非常に大きな責任を感じると共に、喜びを感じた1年でもあった。

統合バイオ)は、2000(平成12)年に岡崎3研究所の共通施設として設立されて以来、新たなバイオサイエンス分野の開拓という趣旨のもと、質の高い研究を展開してきた。一方、この10 年余りの間に、各種生物における全ゲノム配列の決定などの網羅的研究手法が大きく発展し、生物学の新たな発展の可能性が期待されている。すなわち、生命現象に関わる素子としての分子や細胞の同定を主としたこれまでの還元論的な方法論に加え、同定された分子や細胞群に関する情報を統合することにより、生命現象の本質の理解に新たに迫ることへの期待である。このことは同時に、生命という複雑な階層構造を持つ対象を各階層に分断し,それぞれを詳細に調べるという戦略に沿って進んできたこれまでの研究に対して、階層を超えたさまざまな視点からの統合的なアプローチによる研究方法の確立と展開が求められていることを意味する。このような状況は、分子科学から基礎生物学、生理学までをカバーする幅広い分野の研究者が結集する岡崎統合バイオサイエンスセンタ―の存在意義をより高めるものである。また、このような学問的要請に本センタ―が答えるためには、生命現象を理解する上で本質的に重要ないくつかの問題について焦点を当て、それらに統合的な研究方法を組み入れるとともに、階層を超えた研究協力体制を確立することが必要である。そこで2013(平成25) 年度には、これまでの「時系列生命現象研究領域」「戦略的方法論研究領域」「生命環境研究領域」の3 研究領域を、「バイオセンシング研究領域」「生命時空間設計研究領域」「生命動秩序形成研究領域」へと発展的に改組した。

「バイオセンシング研究領域」では、分子から個体までのセンシング機構を駆使して生存している生物の生命システムのダイナミズムの解明に迫るために、環境情報の感知に関わるバイオセンシング機構研究を推進する。分子、細胞や個体が環境情報を感知する機構は様々であり、異なる細胞種や生物種におけるバイオセンシング機構の普遍性と相違性を明らかにするとともにセンスされた環境情報の統合機構も明らかにする。そのために、バイオセンサーの構造解析やモデリング解析、進化解析も含めた多層的なアプローチを実施する。

「生命時空間設計研究領域」では、生命現象の諸階層における時間と空間の規定と制御に関わる仕組みを統合的に理解することを目指す。短時間で起きる分子レベルの反応から生物の進化までの多様な時間スケールの中で起きる生命現象や、分子集合体から組織・個体に至る多様な空間スケールでの大きさや空間配置の規定や制御に関わる仕組みを研究する。そのために、分子遺伝学、オミックスによる網羅的解析、光学・電子顕微鏡技術を活用したイメージング、画像解析を含む定量的計測、などによる研究を展開し、さらに数理・情報生物学を駆使した統合的アプローチを実施する。

「生命動秩序形成研究領域」では、生命体を構成する多数の素子(個体を構成する細胞、あるいは細胞を構成する分子)がダイナミックな離合集散を通じて柔軟かつロバストな高次秩序系を創発する仕組みを理解することを目指す。そのために、生命システムの動秩序形成におけるミクロ-マクロ相関の探査を可能とする物理化学的計測手法の開発を推進するとともに、得られるデータをもとに多階層的な生命情報学・定量生物学・数理生物研究を展開し、さらに超分子科学・合成生物学を統合したアプローチを実施する。

また、それぞれの領域(プロジェクト)に対して、プロジェクトリーダーを決定し、オリオン計画研究を開始した。また、岡崎3機関との連携を強め、3機関研究者がオリオンプロジェクトに参加するオリオン公募研究も開始した。さらに、特任准教授を新たに募集・採用してオリオン特別研究を予定しているが、特任准教授の採用・着任が遅れたため現時点ではまだ稼働していない。しかし、平成26 年度前半には全て開始できる情況にある。

なお、これまで統合バイオのセンター長は統合バイオの教授から選ばれていたが、大胆なセンターの改編を目指して強力なリーダーシップを発揮できるように、センター外の岡崎3機関の教授もセンター長を務めることができるようにし、任期も1期2年、2期まで再任可とすることにした。

今年度より私がセンター長を務めており、この1年間の活動リポートをお届けしたい。

第7期センター長 池中 一裕