岡崎統合バイオサイエンスセンターリポート2004

岡崎統合バイオサイエンスセンターリポート2004の刊行にあたって

岡崎統合バイオサイエンスセンターは、2000年4月に岡崎国立共同研究機構の共通施設として設立され、専任の教授9人、助教授5人、助手5人に加えて客員教授、助教授各1人を定員とする組織としてスタートした。定員は現在も変わっていない。この組織が要覧を刊行するレベルにきたことは何より慶ばしい事と思う。

自然科学はこれまで、化学、生物学、医学といった分化した分野を深く掘り下げる方向で発展してきて、分野間の交流はそれ程重視してこなかった。しかしヒトを含む多くの生物種のゲノムが次々と解読されるに至った現在、自然科学の目標の1つが「生命の理解と生体の制御」となった。具体的には、遺伝子のコードする蛋白質各々の構造・機能の解析や、それらが相互作用して細胞とその集合体が自立的秩序を保って活動する過程の統合的理解が基本課題である。近年の分子生物学、構造生物学の急速な発展は、生物学の主要課題を分子レベルで研究する事を可能にし、分子科学、生物学、生理学の間のバリヤーを取り除いたグローバルな研究展開を図る事が、自然科学研究のフロンティア形成に必須と考えられる情勢を作りつつある。

その事は多くの科学者にはわかっていながら、分化された分野に育った専門家が実行するにはあまりにも困難とあきらめの感が強かった。それ故に、岡崎機構が科学・物理学領域と生物学・生理学領域を合体させ、生命原理の本質的理解に近づくための組織を岡崎統合バイオサイエンスセンターとして創設した事に対し、世の科学者は「さすがは岡崎」とそのチャレンジ精神を称賛してくれた。しかし「うまくいくかな?」という危惧を一方に持ちながら、当センターの成長を見守っているのが、実情であろう。その組織の生みの親である岡崎三研究所は、子供の成長を助け、子どもが一人立ちできるほどに成長して世界の自然科学をリードしていけば、それを誇りにすれば良いと思う。それにより親も若返るだろう。新組織に働く人は親の臑をかじっていると居心地がいいという甘えた考えを捨て、この新組織を自立させ、優れた成果によってそれが認知されるようにする事こそが岡崎のチャレンジ精神の実現であるという気概をもって進んで欲しい。そうする事が『研究所の枠を超えた科学問領域を開拓する』という大学共同利用機関法人自然科学研究機構の目的にも合致し、それを先取りして実行しているとも云える。そして、平成17年度から5ケ年計画として概算要求の認められた、阪大蛋白研との連携研究「膜蛋白質研究国際フロンティア」は、当センターの発展に希望を与えるものである。

北川 禎三(平成15,16年度センター長)