大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター BIO-NEXTプロジェクト 塚谷研究室

研究内容

発生生物学の分野で日本は世界をリードしている。Web of Scienceのデータベースによれば、Hot paperのランキングで世界第1位、論文の引用数でも世界第2位である(2004-2014年、2014年9月22日調べ)。また日本は、メタボロミクスの分野においても世界をリードしており、Thomson Reutersが発表したThe world’s most influential scientific mindsには、後述の平井優美・理化学研究所チームリーダーを含め日本のメタボロミクス研究者の名前が2名も上がっている。しかし分子生物学者や発生生物学者とメタボロミクス研究者の間の連携は、統合バイオの一部にとどまり、組織的な連携や情報の統合にはまだ至っていない。

しかるに近年、順遺伝学的アプローチから、特定の発生過程の制御因子として、思いがけないような代謝関連因子が浮上する事例が増えてきている。そのため、メタボロミクスと発生生物学の系統的な融和による解析は、これまで見逃されてきた未知の重要因子の発見につながる公算が大きいと期待される。これは国内に限らず世界的にも未だ十分に実現していない未開拓分野である。

そこでここでは、メタボロミクスと統合バイオの他の研究分野との連携を柱とする、新しい中核プロジェクトを走らせることにした。すなわちメタボロミクスと発生生物学の双方に通じ、メタボロミクス研究の国内中核拠点の一つである理化学研究研に太いパイプを持つ特任教員を新たに置き、基礎生物学研究所・生物機能解析センターおよび理研のメタボロミクスチームとの連携を基盤に、発生現象をメインとしつつ、国内外の研究者との連携を通じて広くさまざまな生命現象に、新しいメタボロミクス解析の柱を建てるプロジェクトである。スタートは2014年冬、5年間のプロジェクトになる。

上記の目的のため、本プロジェクトはその最大の特徴として、メタボロミクスの解析のため、理化学研究所のメタボロミクスチームと緊密な連携を取り、全国的共同研究ネットワークを構成する。メタボロミクス解析は分析する化合物によって適する機器が異なることから、目的に応じて、基礎生物学研究所・生物機能解析センターの重信特任准教授、理化学研究所の平井優美チームリーダーあるいは鶴岡分室の及川彰准教授があたる。

これにより統合バイオにおいてこれまでに無い全く新しい研究領域を推進し、ひいては日本の生物学全体に対する飛躍的な効果をもたらすことをねらっている。

具体的な目的の中で中核に据えるターゲットは発生現象であり、中でも主要なテーマは、シロイヌナズナの葉形態形成・発生を司る未知の代謝産物とその制御系の解明であるが、プロジェクト全体としては、発生現象にとどまらず、統合バイオの幅広い守備範囲を活かし、共同研究ベースで広くメタボロミクスの応用をはかりたい。特にRNAseqなど次世代シークエンサーデータとの統合もはかる。このようなアプローチから、動植物を問わず多細胞生物の発生現象を司る代謝産物、およびその制御系を明らかにすることで、従来ブラックボックスであった全く新しい発生システムを発見することができると期待している。