細胞生理研究部門生理学研究所

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研究内容

富永 真琴(教授)曽我部 隆彰(准教授)
鈴木 喜朗(助教)齋藤 茂(助教)

研究内容

侵害刺激受容・温度受容の分子機構の解明を目指して

私達は様々な温度を感じて生きていますが、どうような機構で温度受容がなされているかはほとんどわかっていませんでした。カプサイシン受容体TRPV1は初めて分子実体が明らかになった温度受容体であり、現在までにTRPイオンチャネルスーパーファミリーに属する9つの温度受容体(TRPV1, TRPV2, TRPV3, TRPV4, TRPM2, TRPM4, TRPM5, TRPM8, TRPA1)が知られています。TRPV1, TRPV2は熱刺激受容、TRPV3, TRPV4, TRPM2, TRPM4, TRPM5は温刺激受容、TRPM8, TRPA1は冷刺激受容に関わります。43度以上、15度以下の温度は痛みを惹起すると考えられており、その温度域を活性化温度閾値とするTRPV1, TRPV2, TRPA1は侵害刺激受容体とみなすこともできます。TRPV3, TRPV4, TRPM2, TRPM4, TRPM5は温かい温度で活性化し、感覚神経以外での発現が強く、皮膚・味細胞・膵臓・中枢神経系等で体温近傍の温度を感知して皮膚での温度受容・味覚の温度依存性・インスリン分泌・神経活動コントロールなどの種々の生理機能に関わることが明らかになりつつあります。これら温度受容体の異所性発現系を用いた機能解析、変異体等を用いた構造機能解析、感覚神経細胞を用いた電気生理学的な機能解析、組織での発現解析、遺伝子欠損マウスを用いた行動解析などを通して侵害刺激受容・温度受容機構の全容解明を目指しています。

睡眠覚醒調節に関わる神経機構の解明を目指して

我々は人生の約1/3を睡眠に費やすが、どうやって眠るのか?どうして眠るのか?については未だによく分かっていません。しかし、近年の神経ペプチド「オレキシン」に関する研究によって徐々に明らかになりつつあります。オレキシンは視床下部に少数が存在する神経において産生される神経ペプチドです。オレキシンやオレキシン神経を欠損した動物は睡眠覚醒調節の異常を呈し、ヒトの睡眠障害ナルコレプシーはオレキシン神経が特異的に脱落することが原因であることが判明しました。これらのことから、オレキシンが睡眠覚醒調節に重要な役割を担っていることが分かってきました。そこで、オレキシン神経を中心とした神経回路網の解明を行い、睡眠覚醒調節に関わる神経回路網を同定することを試みています。主に遺伝子改変動物を用いた電気生理学的解析を行い、さらに免疫組織学的手法や行動薬理学的手法を組み合わせることによって、睡眠覚醒調節機構を分子・細胞レベルから個体レベルのすべてにおいて解明しようとしています。

Select Reference

  1. "Intracellular alkalization causes pain sensation through activation of TRPA1." J. Clin. Invest., 118, 4049-4057 2008
  2. "Off-response property of an acid-activated cation channel complex PKD1L3/PKD2L1." EMBO R. 9, 690-697 2008
  3. "Vasopressin increases locomotion through a V1a receptor in the orexin/hypocretin neurons- implication for water homeostasis." J. Neurosci., 28, 228-238 2008.
  4. "Effects of body temperature on neural activity in the hippocampus: regulation of resting membrane potentials by TRPV4." J. Neurosci., 27, 1566-1575 2007
  5. "TRPM2 activation by cyclic ADP-ribose at body temperature is involved in insulin secretion." EMBO J., 25, 1804-1815 2006