分子発生研究部門基礎生物学研究所

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研究内容

高田 慎治(教授)
矢部 泰二郎(助教)三井 優輔(助教)

研究内容

分子発生学研究部門では、脊椎動物の体の形作りのメカニズムを解明することを目指して、以下のような研究を行っています。

1 脊椎動物に見られる繰り返し構造の発生メカニズムの研究

動物のからだには、さまざまな繰り返し構造が認められます。例えば、脊椎は一つ一つの椎骨が連なりあってできています。このような反復性は、もとをたどれば発生初期に一過的に形成される体節の反復性に由来します。脊椎動物の各体節は、発生の進行に従い頭部側から尾部側に向けて順次作られますが、その際、体節は胚の後端ににある未分化な細胞(未分節中胚葉)から一定の時間間隔のもと、逐次くびれ切れることにより形成されます。すなわち、未分節中胚葉において一定の時間間隔のもと繰り返し起きる変化が、体節という形態の反復性を生み出しているわけです。このような「時間的周期性から形態的反復性への変換」は脊椎動物の体節形成を特徴づける大きなポイントとなっており、その変換を生み出す分子メカニズムは興味が持たれます。

私たちは、体節形成の分子メカニズムの解明を目指し、ゼブラフィッシュという小型の熱帯魚をモデル系にして体節の分節形成に関わる遺伝子を数多く発見して来ました。そして、それら遺伝子の機能を調べることによって、体節の分節メカニズムに関する新たな知見が得られています。また、ゼブラフィッシュで発見した遺伝子の機能をマウスにおいても解析し、両者の特徴を活かして研究を進めています。

体節と同様に繰り返し構造をとって発生する組織に咽頭弓があります。咽頭弓は魚類では鰓として発達しますが、進化の過程で陸上に上がったほ乳類等では、胸腺、副甲状腺、心臓血管系などを生み出す組織として重要な意味をもちます。私たちは、咽頭弓の発生メカニズムにも興味を持ち、ゼブラフィッシュとマウスを用いて研究を進めています。

2 分泌性シグナルタンパク質Wntの分泌、濃度勾配形成機構の解析

多細胞生物が秩序正しく発生するためには、細胞同士が相互に連携しあうことが重要です。このような相互の連携には、細胞がその周囲に向けて分泌するシグナルが大きな役割を果たしていることがわかっています。このような相互連携においては、分泌シグナルの到達距離や濃度勾配に応じて受け手の細胞の数や反応が変わってきます。したがって、分泌が細胞外へどのように分泌され、どのようにその拡散が制御されるのかという問題は、動物の発生メカニズムを理解する上で不可欠なものであると言えます。私たちはその解明に向け、分泌シグナルの一つであるWntタンパク質に着目し、その分泌と細胞外での輸送の分子機構を研究しています。これまでの研究からWntタンパク質の分泌には、脂肪酸修飾が関わる特殊なプロセスが必要であることが明らかになってきました。

Select Reference

  1. R. Takada, Y. Satomi, T. Kurata, N. Ueno, S. Norioka, H. Kondoh, T. Takao & S. Takada: "Monounsaturated fatty acid modification of Wnt proteins: Its role in Wnt secretion." Dev. Cell 11, 791-801 (2006)
  2. Y. Yamaguchi, S. Yonemura & S. Takada:"Grainyhead-related transcription factor is required for duct maturation in the salivary gland and the kidney of the mouse." Development 133 4737-4748 (2006)
  3. A.* Kawamura, S.* Koshida, H. Hijikata, T. Sakaguchi, H. Kondoh & S.* Takada: "These two authors contributed equally to this work.) Zebrafish Hairy/Enhancer of split protein links FGF signaling to cyclic gene expression in the periodic segmentation of somites." Genes Dev. 19, 1156-1161 (2005)
  4. A. Kawamura, S. Koshida, H. Hijikata, A. Ohbayashi, H. Kondoh & S. Takada: "Groucho-associated transcriptional repressor Ripply1 is required for proper transition from the presomitic mesoderm to somites." Dev. Cell 9 735-744 (2005)
  5. S. Koshida, Y. Kishimoto, H. Ustumi,T. Shimizu, M. Furutani-Seiki, H. Kondoh & S. Takada: "Integrine5-dependent Fibronectin accumulation for maintenance of somite boundaries in zebrafish embryos." Dev. Cell 8, 587-598 (2005)